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市街化調整区域でも家が建てられる「指定区域」とは?
「市街化調整区域にある土地だけれど、家を建てられるだろうか」。ご両親から譲り受けた土地や、購入を検討している土地について、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。原則として、市街化調整区域は建物をむやみに建てられない場所と定められています。
しかし、あきらめるのはまだ早いかもしれません。市街化調整区域の中にも、特定の条件を満たせば、誰でも自分の家を建てられる特別なエリアが存在します。それが「指定区域」と呼ばれる場所です。
この制度を、とても簡単にたとえてみましょう。市街化調整区域は「自然を大切にして、静かに過ごすためのエリア」というルールが決められた場所だと考えてみてください。そのため、新しい建物はあまり建てられません。
ところが、そのエリアの中には、ルールができるずっと前からたくさんの家が建ち並び、人々が生活していた「にぎやかな集落」がありました。そうした場所について、「もともとまちとして成り立っているのだから、これからも家を建ててもいいですよ」と、特別に認められたのが「指定区域」なのです。この特別な制度のおかげで、市街化調整区域であっても、マイホームの夢を実現できる可能性があるのです。
「市街化調整区域」と「指定区域」の関係
ここで、「市街化調整区域」と「指定区域」の関係を整理しておきましょう。
まず「市街化調整区域」とは、都市計画法という法律で「市街化を抑制すべき区域」、つまり、まちが無秩序に広がるのを防ぎ、自然環境などを守るためのエリアと定められています。そのため、原則として住宅や商業施設などを新しく建てることには厳しい制限があります。
一方、「指定区域」は、その市街化調整区域という大きな枠の中に、ぽつんと存在する特別なエリアです。もともと家が建ち並んでいたり、公共施設が整っていたりする集落を、自治体が条例で「ここなら家を建てても良いですよ」と指定した場所を指します。大きな「市街化調整区域」の中に、小さな「指定区域」が点在しているイメージです。

なぜ「指定区域」制度ができたのか
この「指定区域」制度は、法律と地域の実情との間に生じるズレを調整するために生まれました。
法律(都市計画法)ができたとき、すでに多くの家が建ち並び、一つのコミュニティとして機能している集落が市街化調整区域内にたくさんありました。そうした地域では、子どもが大きくなったから家を建てたい、あるいはこの地域に住みたいから土地を買って家を建てたい、というごく自然な要望が生まれます。
こうした地域の現実に合わせるため、都市計画法第34条第11号という規定に基づき、各自治体が条例でエリアを定めることで建築を認める「区域指定型制度」、いわゆる指定区域の制度が作られました。これにより、一定の条件を満たすエリアであれば、市街化調整区域内であっても開発許可を得て住宅を建てることが可能になったのです。
注意点:法改正で「指定区域」は減っています
市街化調整区域に家を建てる希望となる「指定区域」制度ですが、近年、大きな変化がありました。結論から申し上げますと、国の関連法改正は主に令和2年(2020年)に行われ、これを受けて多くの自治体で条例や指定区域が見直された結果、自治体によっては指定区域が縮小されています。
この改正は「廃止」というわけではありませんが、多くの自治体で条例が見直され、これまで「指定区域」だった場所が指定から外されたり、新たな指定がされなくなったりする動きが広がっています。そのため、「以前は建てられたのに、今は建てられない」というケースも出てきています。

災害リスクへの配慮が背景に
なぜ、制度が厳しくなったのでしょうか。その背景には、近年日本各地で多発している自然災害への備えがあります。
新しい法律では、住民の安全を第一に考え、土砂災害や洪水などのリスクが高いエリアを、原則として開発許可の対象から除外する方針が示されました。国の法改正では、災害リスクを踏まえたまちづくりが強化されていますが、都市計画法第34条第11号に基づく指定区域の具体的な運用(例えば、災害イエローゾーンをどう扱うかなど)は、最終的に各自治体の条例や審査基準によって判断されます。
これは、これから家を建てて長く住む方々の安全を守るための重要な変更です。単なる規制強化ではなく、安心して暮らせるまちづくりの一環とご理解いただければと思います。
お住まいの自治体への確認が不可欠です
法改正の影響は、それぞれの市町村によって対応が異なります。ある自治体では指定区域のほとんどが廃止された一方、別の自治体では一部のエリアが存続しているなど、状況は様々です。
したがって、「ご自身が家を建てたいと考えている土地が、今現在も指定区域として有効なのか」を正確に知るためには、必ずその土地がある市町村の役所(都市計画課など)に直接確認することが不可欠です。インターネット上の古い情報や噂だけで判断するのは大変危険です。
計画を進める第一歩として、まずは公的な窓口で最新の情報を確認することから始めましょう。
参考:報道発表資料:「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律 …
指定区域に家を建てるメリット・デメリット
もし、ご自身の土地が無事に「指定区域」として有効だった場合、そこにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。ここでは、指定区域だからこその特徴について解説します。
メリット:誰でも建築可能、土地の価値向上
指定区域の最大のメリットは、条例で定められた用途や敷地面積などの要件を満たせば、その土地に縁故がない方でも住宅の建築を申請できる可能性があるという点です。市街化調整区域では通常、農家の跡継ぎなど、ごく限られた人しか家の建築が認められません。しかし、指定区域であれば、その土地に縁故がない方でも、土地を購入してマイホームを建てることが可能です。
これにより、土地活用の幅が大きく広がります。また、家を建てられる土地になることで、土地そのものの資産価値が向上する可能性も期待できるでしょう。
一般的に市街化調整区域の土地は、市街化区域に比べて価格が安い傾向にあります。建築の自由度が高まることで、費用を抑えつつ理想の住まいを実現できるチャンスが生まれるかもしれません。
デメリット:インフラ整備や建築物の制限
一方で、注意すべき点もあります。指定区域は、あくまで市街化調整区域の一部です。そのため、都市部のようにインフラが完璧に整備されているとは限りません。
例えば、公共の下水道が通っておらず、ご自身で合併処理浄化槽を設置する必要があるかもしれません。その場合、設置費用やメンテナンス費用が別途かかります。また、都市ガスではなくプロパンガスを利用する地域も多いでしょう。
さらに、建てられる建物の種類や規模にも制限があります。自治体の条例によって異なりますが、基本的には「専用住宅」や、自宅と兼用する小規模な店舗などに限定されることがほとんどです。大規模なアパートや商業施設などを建てることはできません。建物の高さや大きさにも制限が設けられている場合があるため、計画の際には注意が必要です。
指定区域で専用住宅を建てるための建築条件と手続き
それでは、実際に指定区域で家を建てるには、どのような条件をクリアし、どんな手続きを踏む必要があるのでしょうか。ここでは、その概要をご説明します。
主な建築条件(自治体により異なります)
指定区域内に土地があればどこでも自由に建てられるわけではなく、自治体が条例で定めた細かい建築条件を満たす必要があります。これは自治体ごとに内容が大きく異なりますが、一般的には以下のような項目が定められています。
- 予定建築物の用途:原則として専用住宅(自分が住むための家)。店舗兼住宅などが認められる場合もある。
- 敷地の面積:「200平方メートル以上」など、最低敷地面積が定められていることが多い。
- 接道条件::敷地が「幅員4m以上の道路に2m以上接している」ことなど、道路との関係が問われる。
- 建物の規模:「2階建て以下」「建ぺい率・容積率の上限」など、建物の大きさに関する制限。
これらの条件は、あくまで一般的な例です。必ず、建築を計画している自治体の条例を確認する必要があります。例えば、当事務所のある栃木県佐野市の基準については、栃木県佐野市 都市計画法第34条第11号に規定する開発行為の許可の基準に関する条例に基づく許可申請についてのページでも解説していますので、ご参考にしてください。
手続きの基本的な流れ
条件を満たしていることを確認できたら、次は建築に向けた手続きに進みます。大まかな流れは以下の通りです。
- 自治体への事前相談:計画の初期段階で、必ず役所の担当課(都市計画課など)に相談します。土地の状況や建築計画を伝え、指定区域の対象となるか、どのような手続きが必要かを確認します。この段階で問題点を洗い出しておくことが非常に重要です。
- 開発許可申請:「開発許可」の申請先は、都道府県または市町村となります。自治体によって管轄や手続き、必要書類が異なるため、事前相談の際に必ず確認が必要です。測量図や設計図など、多くの専門的な書類が必要となります。
- 建築確認申請:開発許可が下りたら、次に建築基準法に基づき、建物の設計が法律に適合しているかどうかの「建築確認」を申請します。
- 工事着工・完了検査::建築確認が下りると、いよいよ工事を始めることができます。建物が完成したら、図面通りに建てられているかどうかの完了検査を受け、合格すれば入居可能となります。
このように、多くの段階を経て許可を得る必要があります。一つひとつの手続きに時間もかかりますので、余裕を持った計画を立てることが大切です。

まとめ:まずはご自身の土地の状況確認から
この記事では、市街化調整区域に家を建てるための「指定区域」制度について解説しました。
この制度は、市街化調整区域であってもマイホームを実現できる可能性を秘めたものですが、2022年の法改正により、その適用は以前より厳しくなっています。特に災害リスクのあるエリアは対象から外れるなど、状況は大きく変化しています。
したがって、まず行うべきことは、ご自身が建築を考えている土地について、管轄の自治体に「現在も指定区域の対象となっているか」を直接確認することです。これが、すべての計画のスタートラインとなります。
開発許可の申請手続きは、専門的な知識や書類作成が求められ、複雑に感じられるかもしれません。開発許可申請や条例の確認などでお困りの際は、行政書士がサポートできる場合があります。費用や具体的な業務範囲は案件によって異なりますので、まずはお気軽にご相談いただき、ご自身の状況に合ったサポート内容かをご確認ください。ご相談内容は、行政書士の守秘義務に基づき厳重に管理いたします。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
