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農地を相続した方へ。まず、この届出を忘れないでください
ご家族が亡くなられ、突然農地を相続することになった…。「何から手をつけていいのか分からない」「手続きが難しそう」と、戸惑いや不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。
ご安心ください。この記事では、専門用語をできるだけ使わずに、あなたが今やるべきことを一つひとつ、丁寧にご説明していきます。一緒に確認していけば、決して難しい手続きではありません。
まず、農地を相続した際に、最初に行うべき大切な手続きが「農地法第3条の3の規定による届出」です。まずはこの手続きについて、じっくり見ていきましょう。
「農地法第3条の3の届出」とは?なぜ必要なの?
「農地法第3条の3の届出」と聞くと、なんだか難しそうに感じますよね。でも、中身はとてもシンプルです。
これは、「相続によって農地の新しい持ち主があなたに変わりましたよ」ということを、農地がある市町村の農業委員会へお知らせ(報告)するための手続きです。
国や市町村は、日本の大切な食料を生み出す農地が、今誰によって所有され、どのように管理されているのかをきちんと把握しておく必要があります。この届出は、そのための重要な役割を担っているのです。
大切なポイントは、これは許可を求める「申請」ではなく、事後報告である「届出」だということです。何かを審査されて許可をもらう、というものではないので、少し気持ちが楽になりますよね。

所有権だけでなく「借りる権利」の相続でも必要です
この届出で見落としがちなのが、土地そのもの(所有権)だけでなく、亡くなった方が誰かから農地を借りて耕作していた場合の「借りる権利(賃借権)」を相続したケースです。
この「賃借権」を引き継いだ場合にも、同じように届出が必要になります。「うちは土地を買ったわけじゃないから関係ない」と思わずに、故人が農地を借りていなかったかどうかも、一度確認してみてくださいね。
許可が必要な「農地の売買」とは手続きが違います
農地の手続きには、今回の「届出」とよく似た言葉で「許可申請」というものがあります。この違いを知っておくと、混乱しなくて済みます。
- 届出(今回あなたがするもの):相続など、自分の意思とは関係なく権利が移る場合。事後に報告します。
- 許可申請:お金を払って買う(売買)など、自分の意思で権利を移す場合。事前に許可が必要です。
今回は「相続」ですので、事前の許可は必要なく、この「届出」だけで大丈夫です。もし、将来的に相続した農地の売買などをお考えの場合は、農地法第3条許可申請書 譲渡人・譲渡人欄記載例についての記事で解説しているような、別の手続きが必要になります。
届出の期限と、もし忘れた場合の罰則について
さて、次に皆さんが一番心配されているであろう「期限」と「罰則」についてです。ここは正確に知っておきましょう。
届出の期限は、権利を取得したことを知った日からおおむね10か月以内です(必ずしも死亡日が起算日とならない点にご注意ください)。
そして、もしこの届出を忘れてしまった場合、届出をしなかった場合は、農地法により10万円以下の過料が科される場合があります。過料は行政上の制裁であり、刑事罰(罰金)とは性質や手続きが異なるものです。
「忘れたらどうしよう…」と不安になるかもしれませんが、まずは落ち着いて、ご自身の状況を確認することが大切です。
期限を過ぎてしまった…今からでもやるべきこと
「この記事を読んだ時点でもう10ヶ月過ぎてしまっている…」と焦っている方もいらっしゃるかもしれません。でも、決して諦めないでください。
やるべきことは、気づいた時点ですぐに、農地のある市町村の農業委員会に正直に相談することです。
うっかり忘れてしまった場合など、悪質なケースでなければ、すぐに罰則ということにはならず、「速やかに届出を出してくださいね」という指導で済むことがほとんどです。大切なのは、放置せずに誠実に対応すること。まずは農業委員会の窓口へ電話で連絡してみましょう。
【3ステップで完了】届出書の書き方と提出方法
ここからは、実際の手続きの流れを3つのステップに分けて具体的に解説します。この通りに進めれば、手続きは完了できますよ。

ステップ1:必要書類を集めよう
まず、提出に必要な書類を準備します。基本的には以下の通りですが、市町村によって少し異なる場合があるので、事前に農業委員会のホームページで確認するか、電話で問い合わせておくと確実です。
- 農地法第3条の3の規定による届出書:農業委員会の窓口や、市町村のホームページからダウンロードできます。
- 相続したことが分かる書類::土地の登記簿謄本(全部事項証明書)や、遺産分割協議書の写しなど。法務局で登記手続きを済ませた後にもらえる「登記完了証」の写しで良い場合も多いです。
- (代理人が手続きする場合)委任状:あなたに代わって行政書士などが手続きをする場合に必要です。
- その他:案内図や公図の写しなどを求められることもあります。
ステップ2:届出書を書いてみよう(記入例付き)
書類が手に入ったら、届出書を記入していきましょう。緊張するかもしれませんが、一つひとつ埋めていけば大丈夫です。
特に迷いやすいポイントをいくつか解説します。
- 届出者:農地を相続したあなたの住所・氏名を書きます。
- 権利を取得した者::ここも、あなたの情報を書きます。もし複数の相続人で共有する場合は、全員分の情報を書くか、代表者を決めて「外〇名」と記載し、別紙で全員のリストを添付します。
- 権利を取得された者::亡くなった方(被相続人)の情報を書きます。
- 届出に係る土地の表示::土地の登記簿謄本を見ながら、所在、地番、地目、面積を正確に書き写します。
- 権利を取得した日::相続が開始した日、前所有者が亡くなった日を書きます。
- 権利を取得した事由::「相続」にチェックを入れます。
- 取得した権利の種類::土地そのものを相続した場合は「所有権」、借りる権利を相続した場合は「賃借権」にチェックを入れます。
全体の書き方については、農林水産省が公開している様式例が参考になります。
参考:様式例第3号の1 農地法第3条の3第1項の規定による届出書
ステップ3:農業委員会へ提出しよう
書類が完成したら、いよいよ提出です。
提出先は、その農地がある市町村の農業委員会事務局です。あなたの住民票がある市町村ではないので、ご注意ください。農業委員会の事務局は、市役所や町役場の中にあることが多いです。
窓口へ直接持参するほか、郵送で受け付けてくれる場合もあります。遠方にお住まいの方は、郵送対応が可能か事前に電話で確認しておくと良いでしょう。
書類に不備がなければ、後日「受理通知書」といった書類が送られてきて、手続きは完了となります。
手続きが不安な方へ。専門家への相談も一つの方法です
ここまで、ご自身で手続きを進める方法を解説してきましたが、「やっぱり一人でやるのは不安…」「平日に役所へ行く時間がない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そんな時は、行政書士などの専門職に手続きを依頼するという選択肢もあります。
専門家に依頼するメリットは、
- 面倒な書類集めや作成から解放される
- 役所の窓口とのやり取りをすべて任せられる
- 「これで合っているだろうか?」という精神的な不安がなくなる
- 農地の相続登記や、その後の活用(売却や転用)に関する相談もできる
といった点が挙げられます。特に、相続人が複数いて話がまとまらない、相続した農地が遠くにあってなかなか行けない、といった場合には、専門家のサポートが大きな助けになるはずです。
当事務所は、栃木県佐野市を拠点に、農地に関する様々なご相談を承っております。ご依頼者様のお気持ちに寄り添い、最善の方法を一緒に考えさせていただきます。この届出について、もし少しでもお困りのことがありましたら、どうぞお気軽にご連絡ください。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
