農地転用が許可不要に?農地法施行規則第29条第1号を解説

「農地に倉庫を建てたい…」手続きが大変そうで不安なあなたへ

「自分の農地に、農機具をしまうための倉庫や、収穫した野菜を一時的に置く作業小屋を建てたいな…」

そうお考えになったことはありませんか?大切な農地を有効活用するための、素晴らしい計画だと思います。

しかし、いざ計画を進めようとすると、「農地転用」という言葉が頭をよぎり、「手続きがなんだか複雑で大変そう…」「費用も時間もかかるんじゃないか…」と、一歩を踏み出せずにいる方も少なくないのではないでしょうか。大切なご自身の土地のことだからこそ、失敗したくないというお気持ち、とてもよく分かります。

でも、ご安心ください。実は、ある一定の条件を満たせば、面倒な「許可」手続きなしで、もっと簡単な「届出」だけで農業用施設を建てられる特別なルールがあるのです。

この記事では、その特別なルールである「農地法施行規則第29条第1号」について、専門用語をできるだけ使わずに、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事を読み終える頃には、あなたの不安が解消され、「何をすべきか」がはっきりと見えているはずです。一緒に、あなたの計画を前に進めるための道筋を探していきましょう。

農地転用とは?まず「許可」と「届出」の違いを知ろう

本題に入る前に、農地転用の基本である「許可」と「届出」の違いについて、簡単にご説明しますね。この違いが分かると、この後の話がぐっと理解しやすくなります。

農地転用とは、かんたんに言うと「農地を、農地以外の目的で使うこと」です。例えば、畑だった場所に家を建てたり、駐車場にしたりすることですね。

日本の大切な食料を生み出す農地は、法律で厳しく守られています。そのため、勝手に他の目的に使うことはできず、事前に手続きが必要になります。その手続きに、大きく分けて2つの種類があるのです。

  • 許可:「これから農地を〇〇として使いたいのですが、よろしいでしょうか?」と、お役所(都道府県知事など)にお伺いを立てて、OKをもらうことです。審査が厳しく、時間もかかります。
  • 届出:「これから農地を〇〇として使いますね」と、お役所(農業委員会)にお知らせすることです。許可に比べて、手続きがシンプルでスムーズに進むことが多いです。

どちらの手続きになるかは、その農地がどのエリアにあるか(市街化区域か、それ以外か)で決まるのが基本です。しかし、今回ご紹介するのは、本来なら面倒な「許可」が必要なエリアの農地であっても、簡単な「届出」で済ませることができる、特別なケースのお話です。

許可が不要に!農地法施行規則第29条第1号という特例

それでは、いよいよ本題です。農地転用の許可が不要になる特別なルール、それが「農地法施行規則第29条第1号」です。なんだか難しそうな名前ですが、内容は「小規模な農業用施設を建てる農家さんの負担を軽くしましょう」という、とても理にかなったものです。

もし、あなたの計画が以下の3つの条件をすべて満たすなら、この特例を使える可能性が非常に高いです。一つずつ見ていきましょう。

条件1:自分の土地に建てること(自己所有農地)

まず大前提として、施設を建てる農地が、あなたご自身(またはご家族など)が所有している土地である必要があります。当然ですが、他人の土地を勝手に使うことはできませんよね。あくまで、ご自身の農業経営のために、ご自身の土地を活用する場合の特例です。

もし土地がご家族との共有名義になっている場合などは、手続きの際に共有者全員の同意が必要になることがありますので、事前に確認しておくとスムーズです。

条件2:農業に必要な施設であること

次に、建てる施設があなたの農業経営にとって必要なものでなければなりません。具体的には、以下のような施設が該当します。

  • 農機具や肥料などを保管する倉庫・小屋
  • ビニールハウスや温室
  • 農作業を行うための作業場
  • 収穫した農産物を一時的に保管・出荷準備をするための施設
  • 家畜のための畜舎など

一方で、農業とは直接関係のない、例えば「自分が住むための家」や「第三者に貸すためのアパート・駐車場」などは、この特例の対象にはなりませんのでご注意ください。

条件3:施設の面積が200㎡(約60坪)未満であること

最後に、施設の面積が200平方メートル(2アール)未満であるという条件です。

200㎡と言われても、ピンとこないかもしれませんね。だいたい約60.5坪(200㎡)です。参考イメージとしては、テニスコート(ダブルス用:約261㎡)の約0.77面分程度の広さです。

ここで、とても重要な注意点があります。この「200㎡」という面積には、建物の面積だけでなく、その施設を使うために必要な通路や砂利を敷いた部分なども含まれるということです。例えば、倉庫の建物自体は100㎡でも、そこに至るための進入路や周りの整地した部分が120㎡あれば、合計で220㎡となり、この特例は使えなくなってしまいます。これは多くの方が見落としがちなポイントですので、計画段階で全体の面積をしっかり測っておくことが大切です。

「該当証明書」とは?届出の手続きと流れを解説

「3つの条件をクリアできそうだ!」となったら、次はいよいよ具体的な手続きです。この特例を使う場合、農業委員会に対して「私の計画は、農地法施行規則第29条第1号の条件に該当しますよね?」ということを証明してもらうための手続きを行います。この手続きは、自治体によって「該当証明願」の提出や、単に「届出」という名称で行われる場合がありますが、大まかな流れは同じです。

ステップ1:まずは地域の農業委員会へ相談

何よりも先に、計画の段階で、あなたの農地がある市町村の農業委員会へ相談に行くことを強くお勧めします。

「これくらいなら大丈夫だろう」と自己判断で進めてしまうと、後から「実は条件を満たしていなかった…」という事態になりかねません。私たち行政書士のような専門家としても、まずはお役所の窓口で公式な見解を確認することが、トラブルを未然に防ぐ最も確実な方法だと考えています。

相談に行く際は、建てたい施設の簡単な図面や、場所が分かる地図などを持っていくと話がスムーズに進みます。

ステップ2:必要書類を集めて届出書を作成

農業委員会に相談し、手続きを進められることになったら、必要書類を準備します。一般的には、以下のような書類が必要になることが多いです。

  • 届出書(または証明願):農業委員会の窓口でもらえます。
  • 土地の位置を示す地図(案内図)::住宅地図のコピーなどで大丈夫です。
  • 公図の写し:土地の形状や隣接地との関係を示す図面です。法務局で取得できます。
  • 土地の登記事項証明書(登記簿謄本):土地の所有者などを証明する書類です。これも法務局で取得します。
  • 施設の平面図や配置図:どのような建物を、土地のどの場所に建てるかを示す簡単な図面です。

これらの書類は、「誰が、どの土地に、どんな施設を建てるのか」を正確に伝えるために必要となります。自治体によって必要な書類が異なる場合があるので、必ず事前に農業委員会にご確認ください。

ステップ3:農業委員会へ提出し、工事完了後に報告

書類一式が揃ったら、農業委員会へ提出します。書類に不備がなければ、届出が受理され(または証明書が交付され)、工事を始めることができます。

そして、無事に施設が完成した後、自治体によっては「工事完了報告書」のような書類の提出を求められる場合があります。この報告をもって、一連の手続きは完了です。

この完了報告が済むと、次のステップである「地目変更登記」に進むことができます。

手続き前に必ず確認!3つの重要チェックポイント

この便利な特例ですが、利用する前には必ず確認しておきたい、重要なチェックポイントが3つあります。「知らなかった」では済まされないこともあるため、計画を立てる前にぜひ一度目を通してください。

ポイント1:その土地は「農振農用地」ではないか?

これが最大の注意点です。あなたの農地が「農振農用地(のうしんのうようち)」に指定されていませんか?これは、農業のために特に重要な土地として守られているエリアで、通称「青地(あおじ)」とも呼ばれます。

たとえ200㎡未満の農業用施設であっても、この農振農用地に指定されている場合は、原則として建物を建てることはできません。もし建てる場合は、まず「農振除外」という、非常に時間と手間がかかる手続きをクリアする必要があります。この確認を怠ると、計画そのものが頓挫してしまう可能性もあるため、必ず市町村の農政担当部署で事前に確認しましょう。

ポイント2:本当に「農業用」と言えるか?

施設の目的を、もう一度よく考えてみましょう。例えば、「自分で育てた野菜を使ってジャムを作り、販売する加工所兼直売所」のような計画はどうでしょうか。

これは単なる「農業用施設」の範囲を超え、「農産物の加工・販売施設」と見なされる可能性があります。その場合、この特例は使えず、6次産業化に関する計画の認定など、別のより複雑な手続きが必要になることがあります。少しでもご自身の農業経営の範囲を超えるような計画の場合は、必ず農業委員会にその内容を詳しく説明し、どの手続きに該当するのかを確認することが重要です。

ポイント3:地目変更登記を忘れずに

農業委員会での手続きが無事に完了し、施設が建っても、それで終わりではありません。最後に、法務局で土地の登記簿上の種類(地目)を「畑」や「田」から「雑種地」などに変更する「地目変更登記」を行う必要があります。

これを忘れてしまうと、登記簿上は畑のままなのに、実際には建物が建っているという不一致が生じてしまいます。将来、その土地を売却したり、相続が発生したりした際に、手続きがスムーズに進まない原因となる可能性があります。地目が変わった場合は、不動産登記法に基づき原則として「変更があった日から1か月以内」に地目変更登記の申請義務があります(申請を怠ると過料の対象となることがあります)。詳細は管轄の法務局に確認してください。

手続きに不安なら専門家へ。行政書士が力になります。

ここまで、農地転用の許可が不要になる特別なルールについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。

ポイントをまとめると、

  • 自分の農地
  • 自分の農業に必要な施設
  • 通路なども含めて200㎡未満で建てる場合

この3つの条件を満たし、さらに農地が「農振農用地」でなければ、面倒な「許可」ではなく、簡単な「届出」で済む可能性がある、ということでした。

「自分の場合はどうなんだろう?」「書類集めや図面作りが難しそう…」もし、少しでも不安や疑問が残るようでしたら、どうぞ一人で抱え込まないでください。

海事代理士・行政書士 中村光男事務所は、栃木県佐野市を拠点に、農地に関するさまざまな手続きをサポートしております。特に、判断が難しい中山間地域の農地手続きについても多くの経験がございます。

ご相談いただければ、あなたの計画がこの特例を使えるのかどうかの確認から、農業委員会との事前相談、複雑な書類の作成、そして提出まで、すべて代行することが可能です。あなたが安心して農業経営に専念できるよう、専門家としてしっかりとお手伝いさせていただきます。

どんな些細なことでも構いません。まずはお気軽なお気持ちで、あなたのお話をお聞かせください。ご連絡を心よりお待ちしております。

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