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農家住宅を建てるための「農家証明書」とは?
「市街化調整区域に、念願のマイホームを建てたい」そうお考えの方が、手続きを進める中で耳にするのが「農家証明書」という言葉です。なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、これは市街化調整区域に農家住宅を建てるために、とても大切な役割を果たす書類です。例えるなら、特別なエリアに入るための「パスポート」のようなもの、と考えると分かりやすいかもしれません。
この記事では、農家住宅の建築に不可欠な農家証明書とは何か、どのような条件を満たせば取得できるのか、そして具体的な手続きの流れについて、一つひとつ丁寧に解説していきます。この記事を読み終える頃には、農家証明書に関する疑問や不安が解消され、家づくりの次のステップへ自信を持って進めるようになるでしょう。
市街化調整区域に家を建てるための重要な書類
そもそも、なぜ農家証明書が必要になるのでしょうか。その理由は、「市街化調整区域」という土地のルールと深く関わっています。
市街化調整区域とは、かんたんに言うと「むやみに建物を増やさず、自然や農地を守りましょう」と定められたエリアです。そのため、原則として誰もが自由に家を建てられるわけではありません。しかし、このルールには例外があります。その一つが、農業を営む人のための「農家住宅」です。
農業を続けていくためには、農地の近くに住むことが合理的であるため、一定の条件を満たせば農家住宅の建築が認められる場合があります。その際に、「私は本当に農業を営んでいる農家です」ということを公的に証明する必要が出てきます。その証明のために使われるのが、農業委員会が発行する農家証明書なのです。この証明書があることで、市街化調整区域でも家を建てる道が開かれる、というわけです。
実は色々な名前で呼ばれています
ここで一つ、知っておくと役立つ大切なポイントがあります。「農家証明書」という名称は、実は一般的な通称です。お住まいの市町村によっては、以下のように様々な名前で呼ばれていることがあります。
- 農業経営実態証明書
- 農地台帳登載証明書
- 耕作証明書
- 営農証明書
いざ役所の窓口で「農家証明書が欲しいのですが」と伝えた際に、「そのような名前の証明書はありません」と言われて戸惑ってしまうかもしれません。しかし、それは単に呼び方が違うだけの場合がほとんどです。ご自身の地域ではどのような名称で呼ばれているのか、事前に農業委員会の窓口やホームページで確認しておくと、手続きがスムーズに進むでしょう。
農家証明書は誰でも取得できる?満たすべき3つの条件
「自分は農家証明書をもらえるのだろうか」これは、多くの方が抱く最も大きな疑問だと思います。結論から言うと、農家証明書は誰でも簡単に取得できるものではありません。農業をきちんと行っていることを証明するための書類ですので、一般的に次の3つの条件を満たしている必要があります。
これらの条件は、あなたが「趣味の家庭菜園」ではなく、「事業として農業を営んでいる」ことを客観的に示すためのものです。一つずつ確認していきましょう。

条件1:農業委員会に農家として登録されている
まず大前提として、あなたの世帯が市町村の農業委員会が管理する「農地台帳」に登録されている必要があります。この台帳は、その地域にどのような農家がいて、どんな農地を耕作しているかを記録した、いわば「農家の住民票」のようなものです。
農家証明書は、この台帳に記載されている情報をもとに発行されます。ですから、そもそも台帳に登録がなければ証明書を発行することができません。まずはご自身の世帯が登録されているか、農業委員会に確認することから始めましょう。より詳しい情報については、農地台帳の取得方法を解説した記事もご覧ください。
条件2:一定の広さの農地を耕作している
次に、事業として農業を行っていると判断されるために、一定規模以上の面積の農地を耕作していることが求められます。この基準となる面積は自治体によって異なりますが、例えば「合計で10アール(1,000㎡)以上」といった基準を設けているところが多く見られます。
なぜ面積の要件があるかというと、小さな家庭菜園レベルではなく、生計を立てるための農業として継続的に取り組んでいることを示すためです。ご自身の耕作面積が基準を満たしているか、また、お住まいの地域の具体的な面積要件はどれくらいか、必ず地元の農業委員会に確認しましょう。
参考情報として、姫路市の耕作証明に関するページをご紹介します。自治体によって要件が異なる具体例としてご覧ください。
耕作(者)証明 – 姫路市
条件3:継続して農業に取り組んでいる
耕作面積だけでなく、実際に農業にどれくらい関わっているかという「実態」も重要な判断基準となります。ただ農地の名義を持っているだけでなく、主体的に農業に取り組んでいることを示す必要があるのです。
自治体によっては、「年間60日以上、農業に従事していること」といった具体的な日数を要件としている場合があります。これは、継続的に農業を行っていることの証となります。新規就農したばかりで、まだ従事日数が少ないという場合もあるかもしれません。そうした個別の事情については、農業委員会に相談してみることが大切です。
農家証明書の取得方法|申請から受け取りまでの5ステップ
それでは、実際に農家証明書を取得するための具体的な手順を見ていきましょう。手続きは、以下の5つのステップで進めるのが一般的です。この流れを頭に入れておけば、初めての方でも安心して手続きに臨めるはずです。

ステップ1:役所の農業委員会で相談・確認する
手続きを始めるにあたり、何よりもまず最初に行うべき最も重要なことは、地元の市町村役場にある「農業委員会事務局」の窓口へ相談に行くことです。この最初のステップが、後の手続きをスムーズに進めるための鍵となります。
事前相談では、以下の点を確認しましょう。
- 自分のケースで必要な書類は何か
- 申請書の様式はどこで手に入るか
- 手数料はかかるのか、いくらか
- 手続きにかかる期間はどれくらいか
いきなり書類を作り始めるのではなく、担当者に直接話を聞くこと。これが、手戻りをなくし、最も確実で安心な方法です。
ステップ2:必要書類を準備する
農業委員会で確認した内容に基づき、必要な書類を準備します。一般的には、以下のものが必要になることが多いです。
- 申請書(証明願): 窓口で受け取るか、自治体のウェブサイトからダウンロードできる場合があります。
- 印鑑: 認印で良い場合がほとんどですが、念のため確認しておきましょう。
- 本人確認書類: 運転免許証やマイナンバーカードなど。
- 委任状: 本人や同一世帯の家族以外が代理で申請する場合に必要です。
手数料については、無料の自治体もあれば、1通300円程度の費用がかかる自治体もあります。これも事前相談の際に忘れずに確認しておきましょう。
ステップ3:申請書に必要事項を記入する
申請書(証明願)を手に入れたら、必要事項を正確に記入していきます。主に記入するのは、申請者の住所・氏名、証明してほしい内容(耕作している農地の情報など)、そして証明書の使用目的です。
特に「使用目的」の欄は重要です。私の経験上、ここには「農家住宅を建築する際の添付書類として利用。」といったように、具体的かつ正直に記入することが求められます。なぜなら、証明書の発行目的によって、記載される内容が変わることがあるからです。もし書き方に迷う部分があれば、無理に自分で埋めようとせず、空欄のまま窓口に持参して担当者に質問しながら記入するのが確実です。
ステップ4:窓口に提出する
すべての書類が準備できたら、農業委員会の窓口に提出します。申請は、本人または同じ世帯の家族が行うのが基本です。もし、どうしても都合がつかない場合は、委任状を用意すれば代理人が申請することも可能です。
書類を提出する際には、担当者の方と一緒に内容に不備がないか最終確認をしてもらうと安心です。この時に、証明書がいつ頃発行されるのか、おおよその目安を改めて聞いておくと良いでしょう。
ステップ5:証明書を受け取る
申請してから証明書が発行されるまでの期間は、自治体によって様々です。早ければその日のうちに発行されることもあれば、1週間程度かかる場合もあります。指定された日以降に、再度窓口へ受け取りに行きましょう。
証明書を受け取ったら、その場で記載されている住所、氏名、農地の面積などに間違いがないかを必ず確認してください。この証明書は、これから先の農家住宅建築の手続きで必要となる、非常に大切な書類です。大切に保管し、次のステップに進みましょう。
農家証明書と「60条証明」の関係とは?
さて、ここまで農家証明書そのものについて解説してきましたが、農家住宅の建築プロセス全体から見ると、この証明書はどのような役割を果たすのでしょうか。ここで重要になるのが「60条証明」というもう一つの書類です。
「60条証明」とは、都市計画法施行規則第60条の規定に基づく証明(いわゆる60条証明)のことで、一定のケースでは、建築確認申請の際に都市計画法に適合していること等を示すために求められることがあります。つまり、この60条証明を取得できれば、建築までの手続きを大幅に簡略化できるのです。
そして、この60条証明を申請する際に、「申請者であるあなたは、本当に農業を営む農家ですよ」ということを証明するための添付書類として、「農家証明書」が必要になります。
関係性を整理すると、以下のようになります。
- 農業委員会で「農家証明書」を取得する。
- その農家証明書を添付して、「60条証明」の申請を行う。
- 60条証明が発行されたら、それを持って建築確認申請に進む。
このように、農家証明書は、最終目的である農家住宅の建築許可を得るための、出発点となる重要なピースなのです。より詳しい情報については、開発行為又は建築行為に関する証明書に添付する理由書についての解説もご覧ください。
参考資料として、優良田園住宅の建設の促進に関する法律に基づき、自治体が定める基本方針の例も挙げられます。
みよし市優良田園住宅の建設の促進に関する基本方針
まとめ:農家証明書は農家住宅建築の第一歩
今回は、農家住宅の建築に欠かせない「農家証明書」について、その役割から取得条件、具体的な手続きまでを詳しく解説しました。
最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- 農家証明書は、市街化調整区域に農家住宅を建てる際、「自分が農家であること」を公的に証明するための大切な書類です。
- 取得するには、「農業委員会への登録」「一定の耕作面積」「継続的な農業従事」といった条件を満たす必要があります。
- 手続きの第一歩は、役所の農業委員会へ相談に行くことです。ここで正確な情報を得ることが、スムーズな取得への一番の近道です。
- 農家証明書は、より重要な「60条証明」を申請するための添付書類として必要になります。
農家証明書の取得は、あなたの夢のマイホーム計画を実現させるための、確実な第一歩です。手続きの過程で分からないことや不安な点が出てくることもあるかもしれません。そのような時は、一人で悩まず、まずは農業委員会の窓口に相談することから始めてみてください。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
