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突然のことでお困りではありませんか?小型船舶の相続でまず知っておくべきこと
大切なご家族が亡くなられ、突然のことで何から手をつけていいか分からず、心身ともにお疲れのことと存じます。故人が大切にされていた小型船舶(ボートや水上オートバイなど)を相続されたものの、この先どうすればよいのか、不安な気持ちでいらっしゃるかもしれません。
不動産や預貯金とは少し異なり、船の相続手続きには専門的な知識が必要になる場面もあります。しかし、ご安心ください。一つひとつの手順を順番に進めていきば、決して難しいものではありません。
小型船舶の相続で必要となる手続きの流れや必要書類、費用について、できる限り分かりやすく、丁寧にご説明します。あなたの不安が少しでも軽くなるよう、お手伝いができれば幸いです。
相続した船、そのままにしていませんか?手続きを放置する3つのリスク
「今は気持ちの整理がつかないから」「手続きが面倒だから」と、相続した船の名義変更(移転登録)を後回しにしてしまうと、思わぬトラブルに繋がることがあります。ここでは、手続きをしないまま放置してしまうことの3つのリスクについてご説明します。

リスク1:法律上の義務違反となる可能性
名義変更(移転・変更・抹消等)の申請に関する期限は、手続の種類や事由によって異なります。例えば法令上、抹消登録の一部事由については事由発生日から15日以内の申請が規定されていますが、相続による移転登録を含む所有者変更全般に一律で「15日以内」が適用されるとは限りません。手続を怠った場合、法令に基づく罰則が適用される可能性があります。罰則の内容・上限は適用される手続や条文によって異なります。
もちろん、「知らなかった」という方も多くいらっしゃるでしょう。大切なのは、この事実を知った今、きちんと手続きを進めることです。
リスク2:事故やトラブルに巻き込まれる危険性
名義が故人のままになっていると、万が一、その船が事故を起こしたり、トラブルの原因になったりした場合に、大変な問題に発展する可能性があります。例えば、台風などで係留ロープが切れて船が流され、他の船や港の施設にぶつかって損害を与えてしまったケースを考えてみましょう。
この場合、船の所有者として登録されているのは故人ですが、その管理責任は相続人全員にあると見なされる可能性があります。つまり、相続人全員が損害賠償の責任を負うことになりかねないのです。名義変更は、こうした予期せぬリスクからご自身を守るためにも非常に重要です。
リスク3:将来の売却や処分が困難になる
「いつか売ろう」「そのうち処分しよう」と考えて手続きを先延ばしにすると、将来、その「いつか」が来たときに、さらに大変な手間がかかることがあります。
時間が経つうちに、相続人の誰かが亡くなってしまったり、連絡が取りにくくなったりすることもあるでしょう。そうなると、関係者がさらに増えてしまい、船を売ったり処分したりするために必要な全員の同意を取り付けることが、非常に難しくなってしまいます。相続の手続きは、関係者がはっきりしている今のうちに進めておくことが、将来の負担を軽くする一番の近道です。
小型船舶の相続手続き、全体の流れを4ステップで解説
それでは、具体的にどのような手順で手続きを進めていけばよいのでしょうか。ここでは、小型船舶の相続手続きの全体の流れを、大きく4つのステップに分けてご説明します。

ステップ1:誰が船を相続するのかを決める(遺産分割協議)
まず最初に行うことは、相続人の皆さん全員で話し合い、誰がその船を引き継ぐのかを決めることです。これを「遺産分割協議」と呼びます。
「妻が引き継ぐ」「船が好きな長女に」など、ご家庭の事情に合わせて話し合いを進めてください。この話し合いが、相続手続きの第一歩であり、最も大切な部分です。そして、話し合いで決まった内容は、遺産分割協議書を作成し相続人全員が署名押印するのが一般的です。
ステップ2:移転登録に必要な書類を集める
誰が船を相続するかが決まったら、次に名義変更(移転登録)に必要な書類を集めます。特に相続の場合は、普段あまり目にしない書類も必要になるため、少し時間に余裕をもって準備を始めましょう。
主に必要となるのは、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本、そしてステップ1で作成した遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書などです。これらの多くは、市区町村の役場で取得できます。
ステップ3:申請書を作成し、手数料を支払う
必要書類がすべて揃ったら、次に申請書を作成します。申請書は日本小型船舶検査機構のウェブサイトからダウンロードできます。ダウンロードのほか、手数料の振込先や提出先(担当支部)・提出方法(窓口持参や郵送の可否)は日本小型船舶検査機構の各手続ページで最新の案内を確認してください。
また、手数料は「移転登録 2,950円(登録手数料)」です。支払方法は日本小型船舶検査機構の案内に従い、原則として郵便局または指定銀行への振込で納付してください。
ステップ4:日本小型船舶検査機構の窓口へ書類を提出する
作成した申請書と、集めたすべての必要書類を揃えて、お近くの本部・支部案内 | 日本小型船舶検査機構の窓口に提出します。窓口に直接持っていくのが困難な場合は、郵送での手続きも可能です。
書類に不備がなければ、後日、新しい所有者の名前が記載された船舶検査証書などが交付され、これで一連の相続手続きは完了となります。このゴールを目指して、一つずつ着実に進めていきましょう。
【一覧】小型船舶の相続(移転登録)に必要な書類と費用
ここでは、手続きに必要な書類と費用について、一覧で分かりやすくまとめました。実際に手続きを進める際のチェックリストとしてご活用ください。
相続の状況によって変わる「必要書類リスト」
遺言書があるかないかなど、状況によって必要書類は少し異なります。ここでは、遺言書がない一般的な相続のケースで必要な書類をリストアップします。
| 書類の種類 | どこで取得・作成する? | 備考 |
|---|---|---|
| 移転登録申請書 | 日本小型船舶検査機構の窓口やウェブサイト | 新しい所有者が記入します |
| 手数料納付書 | 日本小型船舶検査機構の窓口やウェブサイト | 申請書を提出する前に郵便局または銀行からお振込み |
| 被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本 | 市区町村の役場 | 相続人を確定するために必要です |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 市区町村の役場 | |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員で作成 | 相続人全員の署名と実印での押印が必要です |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 市区町村の役場 | 発行から3ヶ月以内のもの |
| 新所有者の住民票 | 市区町村の役場 | 発行から3ヶ月以内のもの |
| 船舶検査証書 | 船に備え付け | 船の車検証のようなものです |
| 船舶検査手帳 | 船に備え付け | 船の記録簿のようなものです |
※事案によっては、上記以外の書類が必要になる場合もあります。

手続きにかかる費用の内訳
手続きにかかる費用は、大きく分けて「日本小型船舶検査機構に支払う手数料」と「書類の取得費用」の2つです。
- 登録手数料(実費):2,950円(移転登録)
- 書類取得費用(実費):戸籍謄本・住民票・印鑑証明書などの取得費用は市区町村によって異なります。多くの自治体では戸籍謄本が概ね数百円台(例:約450円)で、住民票・印鑑証明も数百円台が目安ですが、正確な金額は各市区町村の窓口や公式サイトで確認してください。複数通必要になる場合が多いので、合計で数千円程度を見込むのが一般的です。
- 専門家への報酬:手続きを専門家に依頼する場合は、別途報酬が必要になります。費用は事務所によって異なりますので、事前に見積もりを取ることをお勧めします。
船を使わない場合はどうする?相続後の3つの選択肢
相続した船を、必ずしもご自身で乗り続ける必要はありません。「維持管理が大変そうだ」「誰も乗る人がいない」といった場合には、他の選択肢も考えられます。
選択肢1:名義変更して乗り続ける、または維持する
まずは、これまでご説明してきた通り、相続人の方の名義に変更して、故人の思い出と共に船を大切に乗り続ける、あるいはご自身で所有し続けるという選択肢です。ただし、船にはマリーナの保管料や保険料、定期的なメンテナンス費用といった維持費がかかることを念頭に置いておく必要があります。

選択肢2:売却して現金化する
もし船に乗る方がいないのであれば、売却するというのも一つの有効な方法です。この場合、一度、相続人の名義に移転登録をしてから、買主へさらに移転登録するという流れが一般的です。中古艇の売買を専門に扱う業者に相談すれば、査定から買い手探しまで手伝ってもらえます。維持費の負担がなくなると同時に、売却による収入を得られる可能性があります。
選択肢3:廃船(解体・処分)する
船がかなり古い、あるいは故障していて買い手が見つからない、といった場合には、廃船(はいせん)という選択肢もあります。これは、船を解体・処分し、登録を抹消する手続きです。ただし、船の解体には専門の業者に依頼する必要があり、大きさにもよりますが数十万円単位の費用がかかる場合があります。最終手段として考えておくとよいでしょう。
手続きが複雑で難しいと感じたら、専門家への相談も一つの方法です
ここまで小型船舶の相続手続きについてご説明してきましたが、「戸籍を集めるのが大変そう」「遺産分割協議書の作り方が分からない」「平日に役所や日本小型船舶検査機構に行く時間がない」など、ご自身で手続きを進めることに不安や難しさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そのようなときは、行政書士にご相談いただくのも一つの大切な選択肢です。
当事務所の代表は海事代理士および行政書士の資格を保有しており、日本小型船舶検査機構への移転登録手続や戸籍収集、遺産分割協議書の作成支援など、行政書士・海事代理士の範囲内の手続を一括で請け負うことが可能です。※裁判代理等、行政書士の業務範囲外の手続については弁護士等へご案内します。
特に、ご高齢でご自身で動くのが難しい方や、相続人が遠方にお住まいで手続きがなかなか進まないといったケースでは、専門家がお手伝いすることで、ご負担を大きく減らすことができます。ご自宅や入所されている施設への出張相談も承っておりますので、ご安心ください。
ただ手続きを代行するだけではありません。ご家族の想いに寄り添い、何が最善の方法なのかを一緒に考えさせていただきます。小型船舶の相続でお困りでしたら、小型船舶移転手続きの業務もご覧いただき、ぜひ一度、当事務所の無料相談をご利用ください。
どんな些細なことでも構いません。あなたの不安な気持ちを、まずはお聞かせください。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
