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はじめに:漁船にもレジャーボートにもなる船がある?
もし、お仕事で魚をとるための船が、お休みの日に家族や友達と釣りを楽しむボートにもなったら、とても便利だと思いませんか。実は、そんな夢のような「二つの顔」を持つ船が本当にあります。それが、今回お話しする「小型兼用船(こがたけんようせん)」です。
「兼用」という言葉は少し難しく聞こえるかもしれませんが、心配はいりません。この記事を読めば、小型兼用船がどんな仕組みで、普通の漁船とどう違うのかが、すっきりとわかるはずです。船の秘密を探る冒険に、一緒に出かけましょう。
小型兼用船とは?仕組みをわかりやすく解説
では、さっそく小型兼用船の正体に迫っていきましょう。この船は、ただ「仕事」と「遊び」の両方に使えるというだけではありません。なぜこのような便利な船が生まれたのか、その背景を知ると、もっと面白く感じられるはずです。
昔は、漁業従事者の仕事は魚をとることだけ、というのが当たり前でした。しかし時代が変わり、漁業従事者も魚をとるだけでなく、観光客に釣りを教えたり、海・湖・河川の魅力を伝えたりと、様々な形で海と関わるようになりました。そんな新しい働き方に合わせて、「一台の船で、もっと色々なことができたら良いのに」という声から生まれたのが、この小型兼用船なのです。難しい法律の話を少しだけ身近なことに置き換えると、「働き方の変化に合わせて、船のルールも柔軟になった」と考えるとわかりやすいかもしれません。
「兼用」ってどういうこと?仕事と遊びの使い分け
「兼用」とは、「二つ以上の目的を、一つものでまかなう」という意味です。小型兼用船は、まさにその言葉通り、船の状態を切り替えて使います。
- お仕事モード(漁ろう):漁師として魚をとるために海へ出るとき。
- お休みモード(漁ろう以外):家族と釣りを楽しんだり、お客さんを乗せてクルージングをしたりするとき。
このように、目的によって船のモードを使い分けるのです。ただし、ここには一つだけ大切なルールがあります。それは、その日の運航の実態(誰を乗せるか・何の目的で使うか)を明確にする必要がある、ということです。例えば、網で魚をとりながら(お仕事モード)、同時にお客さんを乗せて釣りを楽しんでもらう(お休みモード)ということはできません。海に出る前に、今日はどちらのモードで船を使うのかをはっきりと決めておく必要があるのです。
どんな大きさの船が当てはまるの?
小型兼用船の「小型」とは、どのくらいの大きさを指すのでしょうか。法律では「総トン数20トン未満」と決められています。いきなり「トン」と言われても、なかなか想像がつきにくいかもしれません。
身近なもので例えるなら、だいたい船の大きさ(船体や船室などの空間の容積)を示す指標、とイメージしてみてください。つまり、私たちが港などでよく見かける、比較的小さな漁船の多くがこのサイズに当てはまります。この大きさだからこそ、一人や少人数でも扱いやすく、様々な仕事に小回りが利くというわけです。
どう違うの?漁船・遊漁船と小型兼用船
「小型兼用船」と似たような船に、「漁船」や「遊漁船」があります。これらは見た目がそっくりなこともあり、混乱しやすいポイントです。それぞれの船が持つ「目的」に注目すると、その違いがはっきりと見えてきます。ここで、3つの船の役割を整理してみましょう。

漁業専門の「漁船」との違い
「漁船」とは、その名の通り、魚をとるお仕事(漁業)のためだけに使う専門の船です。一番大きな違いは、「漁業以外の目的で使えるかどうか」という点にあります。
漁船として登録されている船でも、レジャーとしての釣りなど漁業以外の用途に使用する場合は、用途や航行区域に応じて船舶検査が必要になるなど、守るべき条件があります。それに対して小型兼用船は、漁業だけでなく漁業以外にも使用する前提で、安全基準を満たした運用がしやすい点が特徴です。より詳しい漁船の登録については、別の機会にお話しします。
お客さまを乗せる「遊漁船」との違い
「遊漁船(ゆうぎょせん)」とは、お金をいただいて、お客さまを釣りに連れて行くための船のことです。「釣り船」と言ったほうがイメージしやすいかもしれません。
小型兼用船も、遊漁船として登録する手続きを行えば、お客さんを乗せて釣り船の仕事をすることができます。しかし、大切なのは「小型兼用船であれば、自動的に遊漁船になれるわけではない」という点です。小型兼用船を遊漁船として使うためには、安全に関する厳しい基準をクリアするなど、もう一つ特別な手続きを踏む必要があります。つまり、遊漁船は「お客さまを安全に楽しませる」という目的が加わった、特別な船なのです。
小型兼用船ではどんな仕事ができるの?
一台で二役も三役もこなせる小型兼用船は、その特性を活かして様々な仕事で活躍しています。ここでは、具体的な仕事内容をいくつかご紹介します。
平日は漁師、週末は釣り船の船長
これは小型兼用船の最も代表的な使い方です。平日は自分の漁に出て収入を得て、週末や、魚があまりとれない時期(閑散期)には、釣り好きのお客さんを乗せる遊漁船として船を動かします。一台の船で収入を得るチャンスを増やすことができるため、とても効率的な働き方と言えるでしょう。
観光案内や海上タクシーとしての活用
活躍の場は漁業だけにとどまりません。美しい海岸線や珍しい地形を巡る観光クルーズの船として、地域の魅力を伝える仕事もできます。また、船でしか行けない離島と本土を結ぶ、海上タクシーのような役割を担うことも可能です。地域の観光を盛り上げる、大切な足としても活躍できるのです。
海洋調査や工事現場での作業船
少し専門的な仕事になりますが、海の環境を調べる調査員を乗せて観測ポイントまで行ったり、港や橋の工事現場で作業員を運んだりする作業船として使われることもあります。船ならではの機動力と小回りの良さを活かして、海の安全や発展を支える、縁の下の力持ちのような仕事にも対応できるのです。

小型兼用船を持つための大切なルール
便利な小型兼用船ですが、誰でも自由に使えるわけではありません。人の命を乗せて海に出る以上、守らなければならない大切なルールがあります。ここでは、船を持つために必要な手続きを、「船の身分証明書」や「船の健康診断」といった言葉に置き換えて、わかりやすく解説します。
登録と検査の関係:「漁船登録」と「船舶検査」
小型兼用船は、漁業にも漁業以外(レジャー、遊漁、交通船など)にも使われることがあるため、手続きの考え方が少し独特です。
- 漁船としての登録(漁船登録):漁船として使用する場合は、各都道府県で漁船登録を受けます。
- 船舶検査:漁船登録船であっても、海岸から12海里以遠の水域に行く場合や、漁業以外の用途に使用する場合は、JCIで船舶検査が必要になります。
また、漁船としてではなく一般の小型船舶として転用して使用する場合には、JCIの小型船舶登録が必要になることがあります。
より詳しい情報については、日本小型船舶検査機構(JCI)のウェブサイトも参考になります。
船の健康診断「船舶検査」とは
車に「車検」があるように、船にも定期的な健康診断があります。これを「船舶検査(せんぱくけんさ)」と呼びます。この検査では、船のエンジンや船体に問題がないか、安全に海を走れる状態かが厳しくチェックされます。
漁業だけを目的とする一部の漁船は、この検査が免除される場合があります。しかし、小型兼用船は、お客さんや家族など、漁業関係者以外の人を乗せる可能性があるため、この検査は絶対に受けなければなりません。人の命を預かるからこそ、より厳しい安全チェックが必要なのです。この検査は各地の支部で受けることができます。
安全のための必需品「法定備品」
船に乗る人の安全を守るため、法律で「これを必ず船に積んでおきなさい」と決められている道具があります。これを「法定備品(ほうていびひん)」と呼びます。
例えば、海に落ちた時に浮くための「救命胴衣(ライフジャケット)」、自分の船の場所を周りに知らせるための「信号用の花火」、火事になった時に使う「消火用のバケツ」などがあります。これらは、万が一の時に自分や乗っている人の命を守るための、とても大切なアイテムです。もちろん、船を操縦するための船舶免許も安全運航に不可欠です。
まとめ:小型兼用船は海で働く人の頼れる相棒
今回は、二つの顔を持つ便利な船「小型兼用船」について解説しました。
小型兼用船は、一台で漁師としてのお仕事と、釣り船や観光船といった漁業以外の仕事をこなせる、非常に効率的で頼りになる海の相棒です。この船のおかげで、海で働く人々の可能性は大きく広がりました。
しかし、その便利さの裏側には、安全を守るための大切なルールがあることも忘れてはなりません。船の仕組みを正しく理解し、決められた登録や検査をしっかりと行うことで、初めてその能力を最大限に発揮することができます。もし船のことで手続きに困った際には、船の相続など複雑な手続きも含めて、いつでもご相談ください。
この記事を通して、小型兼用船という船に少しでも興味を持っていただけたら嬉しく思います。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
