このページの目次
「道路後退(セットバック)」とは?なぜ必要なのかを簡単に解説
ご自宅の建て替えや土地の売買を考えたとき、「道路後退(どうろこうたい)」や「セットバック」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。これは、お持ちの土地の目の前にある道路の幅が4メートルよりも狭い場合に、原則として道路の中心から2メートルのラインまで、ご自身の敷地を後退させるルールのことです。
「どうして自分の土地を狭めなければならないの?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。その理由は、私たちみんなが安全に暮らせる街をつくるためです。
例えば、もし火事が起きたとき、道が狭いと消防車がスムーズに入ってこられません。急病人が出たときに、救急車が家の近くまで来られないかもしれません。道が広がることで、いざという時に緊急車両が通りやすくなるだけでなく、日々の通行も安全になり、見通しも良くなります。つまり、道路後退は、ご自身の土地の一部が道路として使われることになり、地域全体の安全性を高めるための取り組みです。
このルールは建築基準法という法律で定められています。そして、後退させた土地の扱いについては、いくつかの選択肢と、土地所有者の負担を軽くするための支援制度が用意されています。この記事では、その中でも特にお金に関わる「補助金制度」について、分かりやすく解説していきます。
参照:建築基準法道路関係規定運用指針の解説(国土交通省)
道路後退用地の寄付で利用できる補助金制度の全体像
道路後退によって生じた土地(後退用地)は、ご自身の土地として持ち続ける場合でも、後退した部分には建物だけでなく、門や塀なども作れない扱いになることが一般的です。
しかし、土地を寄付するには、土地の境目をはっきりさせるための測量や、土地を分けて登録する手続きが必要になり、これらには費用がかかります。街の安全のために協力するのに、費用負担まで負うのは大変です。
そこで、多くの自治体では、土地所有者の負担を軽くするために補助金制度を設けています。

私が事務所を構える栃木県佐野市を例に挙げますと、後退用地を市に寄付する場合、測量や分筆登記にかかった費用について、上限30万円までの補助金を受け取ることができます。これは、公共のために協力してくださる方への、自治体からの感謝のしるしとも言えるでしょう。
このように、道路後退に伴う金銭的な負担を軽減してくれるのが、補助金制度の大きな役割です。
補助金の対象となる主な費用:測量から撤去まで
では、具体的にどのような費用が補助金の対象になるのでしょうか。自治体によって多少の違いはありますが、一般的に以下の費用が対象となることが多いです。
- 測量費・分筆登記費用
後退する土地の正確な面積を測り、元の土地と法的に分ける(分筆する)ための手続きにかかる費用です。土地家屋調査士などの資格を持つ人に依頼するのが一般的です。 - 工作物の撤去費用
後退する土地の上にもともとあったブロック塀、フェンス、門などの構造物(工作物)を撤去するための工事費用です。 - その他
境界に新しい杭を設置する費用などが含まれる場合もあります。
これらの費用は、何もしなければ全て自己負担となりますが、補助金制度をうまく活用することで、出費を大きく抑えることが可能になります。
補助金の金額はいくら?自治体ごとの違いと調べ方
気になる補助金の金額ですが、これは全国一律ではありません。お住まいの自治体によって、内容が大きく異なります。
佐野市のように「上限30万円まで」と上限額が決まっている場合もあれば、「対象費用の3分の2を補助」のように割合で決まっている場合もあります。また、そもそも補助金制度自体がない自治体も存在します。
ご自身の地域でどのような制度があるかを知るためには、以下の方法で調べてみるのが確実です。
- インターネットで検索する
「〇〇市 道路後退 補助金」や「〇〇町 セットバック 助成金」といったキーワードで検索してみましょう。自治体の公式ホームページに情報が掲載されていることが多いです。 - 市役所の担当窓口に問い合わせる
都市計画課、建築指導課、道路管理課といった部署が担当していることが一般的です。電話や窓口で直接尋ねることで、最新の正確な情報を得ることができます。
まずはご自身の地域の制度内容を確認することが、計画を進める上での第一歩となります。
【徹底比較】寄付と無償使用、どちらを選ぶべき?
道路後退で生じた土地の扱いには、主に「寄付」ともう一つ、「ただで道路として使ってもらう約束」という選択肢があります。この二つは似ているようで、実は大きな違いがあります。どちらがご自身の状況に適しているか、メリットとデメリットを比較しながら考えてみましょう。

一番の違いは、「土地の所有権が誰にあるか」という点です。
- 寄付:土地の所有権を自治体に移します。あなたの土地ではなくなります。
- 無償使用承諾:土地の所有権はあなたのままですが、自治体が道路として「無償で使ってよい」と承諾する手続きです。
この違いが、手続きの手間や費用、将来の管理などにどう影響するのか、詳しく見ていきましょう。
| 比較項目 | 寄付 | 無償使用承諾 |
|---|---|---|
| 所有権 | 自治体に移る | 自分のまま |
| 補助金 | 手厚い傾向にある | 少額または対象外の場合も |
| 手続き | 測量・分筆登記が必要で、手間がかかる | 比較的簡単 |
| 将来の管理 | 管理責任がなくなる | 所有者としての責任は残る |
| 固定資産税 | 非課税になる | 非課税になる(要申請) |
「寄付」のメリットとデメリット
メリット
- 手厚い補助金が期待できる
測量費や撤去費など、かかる費用に対して手厚い補助金が用意されている場合が多く、金銭的な負担を大きく軽減できます。 - 将来の管理から解放される
所有権が自治体に移るため、その土地の管理責任は一切なくなります。将来にわたって安心です。 - 固定資産税の心配がなくなる
ご自身の資産ではなくなるため、当然、固定資産税はかからなくなります。
デメリット
- 手続きに手間と時間がかかる
所有権を移すため、測量や分筆登記といった法的な手続きが必須となり、時間と手間がかかります。 - 土地は戻ってこない
一度寄付をすると、その土地を取り戻すことはできません。
「無償使用承諾」のメリットとデメリット
メリット
- 手続きが比較的簡単
分筆登記が不要な場合も多く、書類の提出だけで済むなど、寄付に比べて手続きが簡単な傾向にあります。 - 土地の所有権は自分のまま
将来、何らかの理由で土地の状況が変わった場合でも、所有権を手元に残しておくことができます。(ただし、道路として使用されている限り、建築などはできません。)
デメリット
- 補助金が少ない、または無い場合がある
寄付に比べると補助金の額が少なかったり、そもそも制度の対象外だったりすることがあります。 - 所有者としての責任は残る
土地の所有権は自分のままなので、登記上の管理責任は残ります。ただし、公共の道路として使われるため、固定資産税は申請すれば非課税になることがほとんどです。
農地転用や開発行為を行う際には、この選択が申請面積の計算に影響する場合もあります。
補助金申請の基本的な流れと注意点
補助金を受け取るための手続きは、自治体ごとに細かなルールがありますが、おおむね以下のような流れで進みます。
【申請の基本的な流れ】
- 自治体への事前相談
まずは担当窓口へ行き、ご自身の土地が補助金の対象になるか、どのような手続きが必要かを確認します。 - 業者からの見積もり取得
測量や登記を依頼する土地家屋調査士や、塀の撤去を依頼する工事業者から見積もりを取ります。 - 補助金交付申請書の提出
見積書などを添えて、自治体に「補助金交付申請書」を提出します。 - 交付決定通知の受け取り
自治体の審査が通ると、「補助金を交付します」という決定通知書が届きます。 - 測量・分筆登記・撤去工事の実施
必ず交付決定通知を受け取ってから、業者との契約や工事の着手を行います。 - 実績報告書と請求書の提出
すべての作業が完了したら、領収書などを添えて「実績報告書」と「請求書」を自治体に提出します。 - 補助金の受領
最終的な確認後、指定した口座に補助金が振り込まれます。
【最も重要な注意点】
多くの場合、自治体からの「補助金を出します」という連絡を受け取る前に、業者と契約したり、工事を始めたりすると、補助金の対象外になることがあります。先に進めてしまうと、補助金が受け取れなくなってしまいます。順番を間違えないことが何よりも大切です。

また、こうした補助金は非常に人気があり、自治体の年間予算にも限りがあります。私の経験上、年度末の2月や3月になると予算を使い切ってしまい、申請しても翌年度に回されてしまうケースが少なくありません。道路後退が決まったら、できるだけ早めに相談・申請を始めることをお勧めします。
よくある質問(Q&A)
Q1. 寄付や無償使用にした土地の固定資産税はどうなりますか?
A1. 寄付をして所有権が自治体に移れば、固定資産税はかからなくなります。無償使用承諾の場合も、所有権は残りますが、公共の道路として使われていることなど一定の要件を満たせば、市役所などへ非課税の申告をすることで、その部分の固定資産税が非課税扱いになる場合があります。
Q2. 補助金の申請は自分でできますか?誰かに頼むべきですか?
A2. 申請手続き自体はご自身で行うことも可能です。しかし、測量や分筆登記は土地家屋調査士に、塀の撤去などは工事業者に依頼する必要があります。これらの業者選定や、自治体とのやり取り、書類の準備など、慣れない方には複雑に感じられるかもしれません。手続きに不安がある場合は、当事務所のような行政書士が申請の代行を承ることもできます。
Q3. 私の住んでいる地域に補助金制度がありませんでした。どうすればよいですか?
A3. 残念ながら、すべての自治体に補助金制度があるわけではありません。その場合、測量や撤去の費用は自己負担となります。しかし、道路後退用地を分筆して非課税の扱い(公衆用道路)にすることで、将来の固定資産税の負担はなくなります。費用はかかりますが、長期的に見ればメリットがあると言えるでしょう。
まとめ
今回は、道路後退用地を寄付する際の補助金制度について解説しました。
お持ちの土地が少し狭くなる道路後退ですが、それは安全で快適な街づくりのために必要なことです。そして、その協力に対する負担を軽減するため、多くの自治体が補助金制度を用意しています。
重要な選択肢となる「寄付」と「無償使用承諾」には、それぞれメリットとデメリットがあります。補助金の手厚さや手続きの手間、将来の管理などを総合的に考えて、ご自身の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
手続きが複雑に感じられるかもしれませんが、最初の一歩は、お住まいの自治体の担当窓口に相談してみることです。当事務所は、土地家屋調査士事務所での勤務経験を活かし、このような土地に関する手続きのお手伝いもしております。何から始めればよいか分からない、手続きが面倒だと感じた際には、どうぞお気軽にご相談ください。

栃木県佐野市で生まれ育ち、海事代理士・行政書士として活動しています。船舶、農地、墓じまいなどの手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。地域の皆様と共に最善の解決策を考え、誠実に対応いたします。どんな小さなことでも親身に寄り添いますので、どうぞお気軽にご相談ください。
