開発行為許可申請・雨水浸透槽設置について

はじめに:その開発許可、雨水浸透槽は本当に不要ですか?

市街化調整区域に、自社の工場や倉庫、事務所といった「自己の業務の用に供するもの」を建てようと計画されている事業者様から、よくご相談をいただきます。その中で、「計画している土地は1,000㎡未満の小規模なものだから、大がかりな雨水浸透槽の設置は不要ですよね?」というお話を伺うことがあります。

確かに、多くの手引きにはそのように書かれています。しかし、その認識には注意が必要です。実は、自治体によっては、たとえ1,000㎡に満たない土地であっても、「自己の業務の用に供するもの」の場合には雨水浸透槽の設置を求められるケースがあるのです。

この点を計画の初期段階で見過ごしてしまうと、後から想定外の費用が発生したり、建物の設計を根本から見直さなければならなくなったりと、事業計画全体に大きな影響を及ぼしかねません。この記事では、なぜそのような「思い込みとのズレ」が生じるのか、そして、手戻りのない計画を進めるために何をすべきかを、分かりやすく解説していきます。

開発許可と雨水浸透槽の基本を知ろう

本題に入る前に、まずは基本的な言葉の意味を簡単におさえておきましょう。難しい言葉は使いませんので、どうぞご安心ください。

「開発行為の許可」とは?なぜ必要なのか

「開発行為の許可」とは、一言でいえば「街づくりのルールに合わせて建物を建てるための許可」のことです。もし何のルールもなければ、あちこちに建物がバラバラに建ってしまい、計画的で住みやすい街づくりができません。そうした無秩序な開発を防ぐために、都市計画法という法律で定められています。

特に「市街化調整区域」は、原則として市街化を抑えるエリア、つまり、むやみに建物を建てないようにしましょう、と定められている場所です。そのため、この区域で建物を建てるには、原則として都道府県知事などの許可が必要になるのです。自然災害のリスクを考慮した法改正も進んでおり、こうしたルールの重要性は増しています。

【参照】

「雨水浸透槽」とは?排水施設の役割

「雨水浸透槽(うすいしんとうそう)」とは、敷地に降った雨水を一時的に溜めて、ゆっくりと時間をかけて地面に染み込ませるための、いわば「地下に埋められた大きな箱」のような設備です。近年、1時間降水量50mm以上などの短時間強雨の発生頻度が増加傾向にありますが、こうした雨水が一気に川や下水道に流れ込むと、街が水浸しになってしまう危険があります。

雨水浸透槽は、それぞれの土地で降った雨をその場で処理することで、下水道や河川への負担を減らし、水害を防ぐという大切な役割を担っているのです。

雨水浸透槽の役割と仕組みを説明する図解。雨水が浸透槽に溜まり、ゆっくり地面に染み込むことで水害を防ぐ様子が描かれている。

雨水浸透槽が不要になると思い込む「落とし穴」

さて、ここからが本題です。多くの手引きには「1,000㎡未満の自己の用に供する開発行為」であれば、雨水浸透槽の設置は不要とできる、と書かれています。しかし、この「自己の用に供する」という言葉の解釈に、自治体による違いがあり、それが思わぬ落とし穴になるのです。

面積だけで判断は危険:「自己の用」の解釈の違い

問題となるのは、「自己の用に供する」という言葉を、自治体がどのように捉えているかです。

  • Aパターン:「自分の家(居住用)」も「自分の会社(業務用)」も、どちらも「自己の用」と広く解釈する自治体
  • Bパターン:「自己の用」とは「自分の家(居住用)」に限るものであり、「自分の会社(業務用)」は含まない、と限定的に解釈する自治体

もし、あなたの計画地がBパターンの自治体にあった場合、たとえ面積が1,000㎡未満であっても、「自己の業務の用に供するもの」である工場や倉庫は基準の緩和対象外となり、原則どおり雨水浸透槽の設置が求められることになります。これは、農産物直売所のような特定の用途の建物を建てる際にも同様に注意が必要な点です。

なぜ自治体によって扱いが異なるのか

「なぜ全国でルールが統一されていないのか」と疑問に思われるかもしれません。これには、それぞれの地域が持つ特性が関係しています。

例えば、もともと水はけが悪い地盤のエリアや、過去に水害が頻発した歴史を持つ地域では、少しでも水害リスクを減らすために、業務用建物のような比較的大規模な開発に対しては、より厳しい基準を設けている場合があります。また、近くを流れる川の大きさや処理能力なども考慮し、自治体独自の判断で、法律の基準をより安全側に運用しているのです。

もし雨水浸透槽の設置が必要になったらどうなる?

それでは、もし計画地で雨水浸透槽の設置が必要だと判断された場合、事業計画にどのような影響が出るのでしょうか。具体的なリスクをみていきましょう。

雨水浸透槽の設置が必要になり、工場の設計変更を余儀なくされ頭を抱える事業主のイラスト。

設計変更:建物が小さくなる可能性

最も大きな影響の一つが、建物の設計変更です。雨水浸透槽の上部は、構造・設計条件によって荷重制限や利用制限が生じるため、建物の基礎や重量物の載荷を避けるなどの配慮が必要になる場合があります。例えば、300㎡の土地に事業用の建物を計画していたとします。もし、厳しい基準が適用され、大きな雨水浸透槽が必要になった場合、敷地の大半を浸透槽が占めてしまうことも考えられます。

そうなると、当初計画していた大きさの工場や倉庫が建てられなくなり、事業計画そのものを見直さざるを得ない、という事態に陥る可能性があります。

費用と工期:想定外のコストと時間

当然ながら、雨水浸透槽を設置するには追加の費用がかかります。浸透槽本体の材料費だけでなく、設計費や掘削工事費なども必要です。浸透槽の規模によっては、この費用が数百万円単位になることも珍しくありません。

また、設置工事の分だけ、全体の工期も長くなります。計画していた事業のスタートが遅れることは、資金繰りにも影響を与えかねません。このように、雨水浸透槽の要否は、設計にかかる費用や工期などを大幅に変えてしまう重要な要素なのです。

失敗しないために。計画初期に行うべきこと

ここまで読んで、少し不安に感じられたかもしれません。しかし、ご安心ください。こうしたリスクは、計画の早い段階で適切な行動をとることで、十分に回避することが可能です。

最重要:自治体との事前協議で必ず確認する

最も重要で、かつ確実な方法は、土地の契約や設計に着手する前に、管轄の都道府県や市区町村の担当窓口(都市計画課など)へ事前協議に行くことです。

その際、「市街化調整区域で、〇〇㎡の土地に、自己の業務の用に供するものとして工場(倉庫・事務所など)を計画しているのですが、雨水浸透槽の設置は必要でしょうか?」と、具体的かつ明確に質問することが肝心です。私たちのような実務家も、ご依頼を受けた際には、まずこの確認から始めます。これは、後戻りできない失敗を防ぐための鉄則です。

土地選びの段階から注意点を意識する

事前協議の結果、もし雨水浸透槽の設置が必要だと分かった場合、その土地で本当に計画が実現できるのかを冷静に判断する必要があります。特に、あまり広くない土地の場合、浸透槽を設置すると必要な建物スペースが確保できず、計画自体が成り立たなくなることもあります。場合によっては、その土地での計画を諦め、他の候補地を探す方が賢明な判断となることもあります。

こうした事態を避けるためにも、土地選びの段階から、この雨水浸透槽の問題を頭の片隅に置いておくことが大切です。

まとめ

今回は、市街化調整区域で「自己の業務の用に供するもの」を建築する際の、雨水浸透槽設置に関する注意点について解説しました。

重要なポイントをもう一度おさらいします。

  • 市街化調整区域での開発には、原則として許可が必要。
  • 1,000㎡未満であっても、「自己の業務の用に供するもの」の場合、自治体によっては雨水浸透槽の設置が求められる。
  • 面積だけで判断せず、必ず計画の初期段階で、土地の契約や設計の前に、自治体の担当窓口に事前確認を行うこと。

この一手間を惜しまないことが、想定外のコストや計画変更といったリスクを避け、スムーズな事業計画を実現するための鍵となります。この記事が、あなたの事業計画の一助となれば幸いです。このテーマの全体像については、指定区域制度(市街化調整区域)の解説で体系的に解説しています。

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